口臭症 Halitophobia/Olfactory Reference Syndrome
①どんな病気?
他覚的に口臭は認めないにもかかわらず、咳き込まれる、鼻に手をやるなどの他人の偶然の仕草を自分の口臭と関連づけ、「臭いがひどいため他人に迷惑をかけている」と確信し、対人場面で支障をきたす病気です。
②どんな人に多い
口臭の治療を求めて受診する患者さんの1/4程度とされています。基本的に思春期から青年期に発症することが多く、男性より女性の方がやや多いようです。4−50代の患者さんも少なくありませんが、この場合は職場の会議やプレゼンなど公的な場面で最も苦痛が大きく、発症も思春期とは限りません。
③原因は?
患者さん自身は、「そんなんじゃない!」「本当にイヤなニオイがするんです!」と断固否定されることが多いのですが、実際には偶然の他人の仕草などの視覚情報をもとに高次情報処理過程で、「自分は臭っている」といった誤った認知を生んでいるものと推測されます。それが扁桃体の過剰活動を惹起し周囲への注意を高め、ますます自分の口臭への確信を強めることになります。その結果さらに対人場面に消極的になっていくといった悪循環に陥るのではないかと推測されています。
③臨床症状は?
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口腔内は総じて清潔で、虫歯や歯周病は完璧に治療されていることが多い。
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知的なレベルは高い患者さんが多く、服装や化粧はやや地味ながらも小奇麗にまとまっている。
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他覚的には口臭は認められないが、「生理的口臭」という検査結果に納得できない。
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咳をされる、手を鼻にあてる、距離を空けられる、など「相手が“臭う”という仕草をする」ので「自分の口臭がひどい」と確信し「ひとの迷惑になるので申し訳ない」と悩んでいる。
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家庭内より学校や職場のような「半見知り」の人たちと一定の時間と空間を拘束される状況でもっとも症状は強まる。
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会話時やバス・電車など人混みに入る際などに「臭うのではないか」と強い不安を感じ、対人場面を避けたり、自宅に引きこもったりする場合もある。
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自分の口臭に対する確信は妄想的とも言えるほど強固だが、幻聴や幻覚などは認められない。
④治療は?
口臭の完全消失や「ニオイ物質」の完全除去を目指しても無理があります。この病気の治療の目標は「普通の生活が普通に送れること」であり、そのために、如何に対人場面での困難を軽減・克服していくかが治療のキモになります。まず患者さんが感じている状態・苦痛への理解と、望むべき状態や方向性を医療者と共有することが肝心です。ガスクロマトグラフィーなどの検査結果を盾にニオイの有無についての議論をしてもまず良い結果にはなりません。
本症に対する薬物療法としては、SSRI(Selective Serotonin Reuptake Inhibitor)と抗不安薬の併用療法が有効です。SSRIの治療結果は,著効例が56%,中等度改善例が33%,不変例は11%であったとする報告があります。セネストパチーとの合併例ではDPA(Dopamin partial agonist)が有効な可能性もあることがわかってきました。薬物による症状の軽減に合わせて、今まで避けていた対人場面への参加を促し、それまで避けていた活動や行動範囲を広げるような認知行動療法的な対応が治療効果を上げます。
⑤予後は?
ごくまれに統合失調症に発展するケースも報告されていますが、ほとんどの場合、長期的な予後は良好で、社会適応もまずまずなレベルに回復したまま推移することが多いようです。
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