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当科の治療の特色

「歯科心身症は医療の死角」

 歯科心身症は、多くの歯科医師に「歯科的に問題ない」などと敬遠されがちです。そこには「気のせい」「神経質」という含意が読み取れます。ある患者さんは「気にしすぎるから痛いんじゃないんです。痛いから気になるんです!」と憤慨されていました。一方、精神疾患のためにこのような口の症状が出てしまう患者さんはごく一部(約20%)です。

 我々の臨床研究データから、従来の歯科医学では説明ができない痛みや不快感には、微妙な脳活動のアンバランスが関与していることが明らかになってきました。

Yojiro Umezaki, Ayano Katagiri, Motoko Watanabe, Miho Takenoshita, Tomomi Sakuma, Emi Sako, Yusuke Sato, Akira Toriihara, Akihito Uezato, Hitoshi Shibuya, Toru Nishikawa, Haruhiko Motomura, Akira Toyofuku. Brain perfusion asymmetry in patients with oral somatic delusions. Eur Arch Psychiatry Clin Neurosci. 2013 June; 263(4): 315–323.  Published online 2013 January 29. 

 残念ながらこのような患者さんを診るなり「すぐ精神科へ」と忌避する歯科医師がいまだに少なくないのが現状です。行き場を失い、難治性の口腔症状に苦しむ患者さんは、藁をもすがる気持ちで漢方薬などを十分な説明を受けずに使用したり、効果がない健康食品を高価で購入されたりしている場合も多いようです。

 当科では保険診療の制約の中では行いにくい治療も上手に取り入れて、医学的根拠に基づいた方法で安心して心身医療を受けられる体制を整備しています。

 

「歯科だからできる心身医療」

 患者さんとご家族に寄り添えるような丁寧な診療をこころがけています。

 歯科医学的見識のもと適切な検査を踏まえ、訴えに潜んでいる、分かりにくい病気を見逃さないことは大前提です。効果のない無定見な歯の処置は避け、病気の本質に迫る治療を提供しています。薬剤は必要最小限にとどめ、その患者さんごとの「至適最小用量」での治療(minimum dose therapy)を目指しています。そのためにも認知行動療法的なアプローチや生活リズムの乱れに対する療養指導も併用しています。必要に応じて、ご本人の同意のもとに保険診療の制約に拘泥することなく、その患者さんに最も善いと考える治療を追求しています。

Watanabe M, Takenoshita M, Tu TTH, Toyofuku A. Real-world Discontinuation of Antidepressant Treatment in Patients with Burning Mouth Syndrome: A Chart Review. Pain Med. 2019 Dec 16. pii: pnz324.

 

「歯科でしかできない心身医療」

 歯を削ったり抜いたりと言った歯科的な処置は、タイミングと方法を誤ると却って症状を悪化させるものです。患者さんの病状や状況などを良く見極めながら、必要かつ最小限の歯科処置を慎重に実施します。

 安全で有効な処方は、そのお薬をよく知っていることが大前提ですが、使う相手(治療対象となる病気)について知り抜いていることも大切です。歯科心身症は、お薬だけで治る、というほど甘い病気ではないことは日々身に沁みています。

 

  なお精神疾患に関連した口腔症状に関しては、精神科主治医の先生と密に連携し、その時のその患者さんにベストな治療法を当事者と一緒に考えいきます。

 我々だけでは力が及ばない場合には当院精神科や東大病院痛みセンター、あるいは下記の先生方にご協力を仰いでいます。

    連携クリニック;

​ ①大船心療内科https://ofuna-mental.com/dr.html

   PIPCのお師匠である井出広幸 先生の本気クリニックです。

​ ②ひびきメンタルクリニックhttps://hibikimental.com/

   福岡大学病院で一緒にお仕事していた竹内今日生 先生のクリニックです。

 メモリークリニックお茶の水https://memory-cl.jp/

   認知症が疑われた場合、第一人者の朝田隆 教授にご紹介しています。

Sumi S, Nagamine T, Sumi K, Aijima R, Oka K, Toyofuku A. Case report: Open bite as an extrapyramidal side effect with aripiprazole, a dopamine partial agonist. Front Psychiatry. 2022 Sep 6;13:976387. doi: 10.3389/fpsyt.2022.976387. PMID: 36147978; PMCID: PMC9485676.
 

Suga T, Nagamine T, Tu TTH, Moriyama K, Toyofuku A. Orthognathic Surgery for Patients with Neurodevelopmental Disorders Requires Careful Decision-making by a Multidisciplinary Team. Innov Clin Neurosci. 2022 Apr-Jun;19(4-6):9-10. PMID: 35958965; PMCID: PMC9341309.

Kasahara S, Takao C, Matsudaira K, Sato N, Tu TTH, Niwa SI, Uchida K, Toyofuku A. Case report: Treatment of persistent atypical odontalgia with attention deficit hyperactivity disorder and autism spectrum disorder with risperidone and atomoxetine. Front Pain Res (Lausanne). 2022 Jul 22;3:926946. doi: 10.3389/fpain.2022.926946. PMID: 35935670; PMCID: PMC9353025.

Umezaki Y, Asada T, Naito T, Toyofuku A. A case of oral cenesthopathy in which dementia with Lewy bodies developed during treatment. Psychogeriatrics. 2020 Sep;20(5):766-768. doi: 10.1111/psyg.12541. Epub 2020 Mar 15. PMID: 32173959; PMCID: PMC7586958.

Kasahara S, Takahashi K, Matsudaira K, Sato N, Fukuda KI, Toyofuku A, Yoshikawa T, Kato Y, Niwa SI, Uchida K. Diagnosis and treatment of intractable idiopathic orofacial pain with attention-deficit/hyperactivity disorder. Sci Rep. 2023 Jan 30;13(1):1678. doi: 10.1038/s41598-023-28931-3. PMID: 36717626; PMCID: PMC9887013.

 

「薬物療法の考え方」 

 

 手術の修行と同様に「処方の技術」も、技量の高い経験豊富な師匠について学ぶことが大切だと思います。

 私は、歯科口腔外科領域で初めて(約50年前に)三環系抗うつ薬による舌痛症の治療に成功した恩師(福岡大学医学部歯科口腔外科学教室 都 温彦(みやこ はるひこ) 名誉教授)のもとで修業し、かつCMIの“深町分類”で高名な深町 建(ふかまち けん)先生門下の先輩諸氏の薫陶を受けながら、歯科における抗うつ薬療法について約30年間の臨床経験を重ねてきました。

 1990年に歯科医師となった私達の世代は、最初の10年間は主に三環系抗うつ薬の使い方のトレーニングを受け、その10年後にSSRISNRIの時代も経験し、いずれの薬剤の長所も短所も、そして中長期の経過も知悉してきました。さらに2014年からは、抗精神病薬の身体副作用のエキスパートであられる内科医の長嶺敬彦先生(三光舎)にもご指導を仰ぎつつ、大学院講義や共同研究も実施できるようになりました。

 薬の作用・副作用に通暁するだけでなく、その疾患にどう効くか?に精通していることが大事だと思います。例えば抗うつ薬が舌痛症にどう効くのか、分かってる者が処方した場合と全く理解していない者が処方するのとでは効き目がまるで違ってくるものです。薬の効果を引き出すにも相応の知識と技術が必要だと考えています。

 複数の持病を有し常用薬も多いご高齢の患者さんの増加も、このような処方選択を難しくする一因です。目の前の患者さんに、手持ちの薬がどういう効き目が期待でき、副作用や飲み合わせも含めてどういう困ったことが予想されるかの見極めが重要だと思います。

Tu TTH, Takenoshita M, Matsuoka H, Watanabe T, Suga T, Aota Y, Abiko Y, Toyofuku A. Current management strategies for the pain of elderly patients with burning mouth syndrome: a critical review. Biopsychosoc Med. 2019 Jan 31;13:1.

 なお永らく大学病院勤めで来ましたので、新しい薬は積極的に使用してきました。しかし、最新の薬が常に一番良いとは限りません。効果、副作用、そしてコストの問題も勘案して、個々の患者さんにベストの処方を考えていく必要があります。特に昨今、薬剤コストの問題は、医療経済や臨床判断の上でもますます重要になってきました。

 新しい特効薬がどんどん開発できれば夢のある話ですが、現実問題として今日明日に、というのは難しい問題も多々あります。そこで改めて既存の薬剤をもっと上手に使えないか、もっとコスト・パフォーマンスの良い治療ができないか、昔の安い薬剤の使い方をもう一度見つめ直しているところです(SSRIなども、ほとんどの薬にジェネリック医薬品が出て随分安価にはなりました)。もちろん古い薬の限界(ここまでしか効かない、こういう副作用が出るetc.)も十分知り尽くしていますので、新しい薬との組み合わせも含めて慎重に検討しているところです。

 個々の患者さんでどのお薬をどう使用したら良く効いて副作用も最小限にできるのか?そして,どうしたら,その患者さんの病状にベストのお薬をいち早く選択できるのか?をデータの蓄積とともに検証を重ねているところです。

 手術手技の改良のように、もっと良い方法がないものか、1例1例の患者さんの治療経験を通して、後進の教育と処方技術の改良を積み重ねている毎日です。

(豊福 明)

 

1)Suga T, Takenoshita M, Watanabe T, Tu TT, Mikuzuki L, Hong C, Miura K, Yoshikawa T, Nagamine T, Toyofuku A. Therapeutic Dose of Amitriptyline for Older Patients with Burning Mouth Syndrome. Neuropsychiatr Dis Treat. 2019 Dec 30;15:3599-3607. doi: 10.2147/NDT.S235669. eCollection 2019. PubMed PMID:
31920319; PubMed Central PMCID: PMC6941698.

2)Watanabe M, Takenoshita M, Tu TTH, Toyofuku A. Real-world Discontinuation of
Antidepressant Treatment in Patients with Burning Mouth Syndrome: A Chart Review.
Pain Med. 2019 Dec 16. pii: pnz324. doi: 10.1093/pm/pnz324. [Epub ahead of print]
PubMed PMID: 31841160.


3) Paudel D, Utsunomiya M, Yoshida K, Giri S, Uehara O, Matsuoka H, Chiba I,
Toyofuku A, Abiko Y. Pharmacotherapy in relieving the symptoms of burning mouth
syndrome: A 1-year follow-up study. Oral Dis. 2020 Jan;26(1):193-199. doi:
10.1111/odi.13226. Epub 2019 Nov 26. PubMed PMID: 31705718.

4) Tu TTH, Miura A, Shinohara Y, Mikuzuki L, Kawasaki K, Sugawara S, Suga T,
Watanabe T, Aota Y, Umezaki Y, Takenoshita M, Toyofuku A. Pharmacotherapeutic
outcomes in atypical odontalgia: determinants of pain relief. J Pain Res. 2019
Feb 27;12:831-839. doi: 10.2147/JPR.S188362. eCollection 2019. PubMed PMID:
30881094; PubMed Central PMCID: PMC6398971.

​5)Tu TTH, Takenoshita M, Matsuoka H, Watanabe T, Suga T, Aota Y, Abiko Y, Toyofuku A. Current management strategies for the pain of elderly patients with burning mouth syndrome: a critical review. Biopsychosoc Med. 2019 Jan 31;13:1.
doi: 10.1186/s13030-019-0142-7. eCollection 2019. Review. PubMed PMID: 30733824; 
PubMed Central PMCID: PMC6357406.

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